和解の勧誘に応じる前に弁護士にご相談ください
1 消費者金融の苦慮
利息制限法の上限利率を超える利率で貸し付けていた消費者金融会社やクレジットカード会社は、ほとんどの業者が2006年(平成19年)ころから2008年(平成20年)ころにかけて新規契約の約定利率を利息制限法の上限利率以下に下げました。
また、利息制限法の上限利率を超える利率で借りていた利用者の約定利率も、時期は利用者により区々ですが、業者により利息制限法の上限利率以下に下げられました。
しかし、約定利率を利息制限法の上限利率以下に下げたとしても、その時点で引き直し計算をすると過払いになっていた場合はあまり意味がありません。
というのも、ある時点で利息も含めて200万円の過払い金が発生していた場合、業者が100万円を追加で貸付けたとしても、計算上は、200万円の過払い金からすぐにその返済に充てられてしまいますので、貸し付けた100万円について約定利率分の利息を取ることはできません。
つまり、計算上は既に過払いになっている利用者に対して追加で貸付けを行った場合、将来過払い金の返還を請求されれば、貸付けを行っただけ損失が膨らむことになります。
そこで、計算上過払い金が発生している利用者については、追加の貸付けを停止している例も多く見られます。
2 和解の勧誘に注意
このように、過払いが発生している利用者に対し追加の貸付けを行うと、将来過払いの返還請求を受けた場合に損失が膨らみますので、追加の貸付けを停止している例が多く見られますが、それを超えて、和解の勧誘を行って和解を締結している例が見られます。
例えば、約定利率による残債務(引き直し計算前の残高のことです)が200万円の場合、約定利率が利息制限法の上限である15%に下げられていても、少なくない金額の利息が発生しますので、完済までの道のりは長くなります。
そのような利用者に対し、業者が、利息を0%にするからと声をかけ、和解の締結を勧誘しているケースがありますが、引き直し計算をすると多額の過払いが発生していた場合でも、その和解契約の内容によっては、過払い金の請求ができなくなるおそれがあります。
業者から和解の勧誘をされた場合は、それに応じる前に必ず弁護士に相談してください。
引き直し計算の注意点
1 引き直し計算とは
過払金の計算をするためには、引き直し計算用のエクセルソフトをネットでダウンロードし、消費者金融業者やクレジットカード会社から開示された取引履歴に記載されている情報(借入日と借入金額、返済日と返済金額等)を入力する必要があります。なお、引き直し計算用のエクセルソフトは無料でダウンロードできます。
このエクセルソフトに必要な情報を入力すると、自動的に過払金の金額が計算されます。
以下、引き直し計算を行う際の注意点についていくつか指摘したいと思います。
2 入力漏れ、入力間違い
消費者金融やクレジットカード会社との継続的な金銭消費貸借取引は、借りたり返したりを繰り返しますので、10年以上に及ぶことも珍しくありません。
そうすると、エクセルに打ち込まなければならない情報量も膨大になります。
消費者金融等が開示する取引履歴も文字が小さい場合がありますので、見間違いによる入力間違いが生じることもありますし、貸付けと返済は入力する行が異なりますので、誤って返済を貸付欄に入力してしまうこともあります。
入力後、入念にチェックすることが重要です。
3 利率の入力
⑴ エクセルには、借り入れと返済の情報のほか、利率も入力する必要があります。
利息制限法では、残高が10万円未満の場合は20%、10万円以上100万円未満は18%、100万円以上は15%が上限利率ですので、それに合わせて利率を入力する必要があります。
ただし、エクセルの計算上10万円以上100万円未満で推移していた残高が借り入れの増加により100万円以上になったため上限利率を15%に変更したところ、その後返済により残高が10万円以上100万円未満になったとしても、上限利率は15%のままです(18%に戻るわけではありません)。
⑵ 利息制限法の上限利率より約定利率の方が低くなった場合は、利率の変更があった時点でその約定利率を入力します。
当初は利息制限法の上限利率を超える取引であっても、長期間継続していると、途中で利息制限法の上限利率未満の利率になっている場合があります。
ただし、利息制限法の上限利率未満の利率になった時点で既に過払いになっている場合は、貸付利率は問題になりませんので(過払いに法定利率による利息が付加されます)、誤って利息制限法の上限利率を入力していたとしても、計算結果は同じになります。
過払い金返還請求を弁護士に依頼する時期
1 過払い金が発生していれば請求できます
利息制限法の上限利率を超える利率で消費者金融会社やクレジットカード会社と継続的に借りたり返したりを繰り返している場合(一部の時期のみ利息制限法の上限利率を超えている場合も含みます)、今も残高が残っていたとしても、利息制限法の上限利率で引き直し計算をするとその残高がなくなり、過払いになっていることが相当数あります。
過払い金が発生していれば、当然ですが、その返還を請求することができます。
なお、まれに、残高が残っていると(残高を全額返済しないと)過払い金の請求ができないと誤解されている方もいらっしゃいますが、過払い金が発生しているということは、その残高はもうないということですので、過払い金の返還を請求することができます。
また、クレジットカード会社についてショッピングの残高が残っていたとしても、過払い金の額の方が大きければ、ショッピングの残高を控除した残額を請求することができます。
2 過払い金の返還請求手続を弁護士に依頼する時期―信用情報との関係
借入金について既に完済しており、クレジットカード会社についてはショッピングの残高もない場合は、すぐに過払い金返還請求を弁護士に依頼していただいて問題ありません。
しかし、借入金について残高が残っている場合(利息制限法の上限利率で引き直し計算をすると残高が消滅し過払いになっている場合)や、ショッピングについて残高がある場合は、弁護士が代理人として介入すると、信用情報に事故情報が掲載されることになります。
借り入れの約定残高やショッピングの残高について、いったん返済をストップするためです。
もちろん、過払い金返還請求について業者側と和解した場合は、約定残高やショッピングの残高は和解により確定的に消滅しますので、信用情報では完了となりますが、日常生活にクレジットカードが必須の方や、今後住宅ローンを利用して住宅の購入を検討している方の場合は、借り入れの約定残高やショッピングの残高をすべて完済し、クレジットカード契約等を解約してから過払い金返還請求を弁護士に依頼した方が安全でしょう。
ただし、過払い金返還請求の時期を遅らせる場合、取引の分断や貸付停止措置との関係で消滅時効の問題が発生することもありますので、完済する前に一度弁護士に相談いただくとよいでしょう。
過払金には消滅時効があるためお早めに弁護士にご相談ください
1 過払金の消滅時効
過払金は,法律的には不当利得返還請求権になるため,債権として10年の消滅時効が適用されます。
なお,令和2年4月1日から施行された改正民法により消滅時効についても改正されましたが,令和2年3月31日以前に消滅時効期間が開始している過払金には改正前民法が適用されますので,ここでは改正前民法を前提にご説明します。
2 過払金の消滅時効の起算点
過払金の消滅時効の起算点について,最高裁は,「継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する」旨判示しました(最高裁HPの裁判要旨)。
つまり,約定残高を完済したときは完済時,完済前に返済をストップしていたときは最後の取引時(最後の取引が借り入れということもあり得ます)から消滅時効期間が進行するということです。
その理由として,最高裁は,過払金発生時から時効期間が進行すると,借主は過払金が発生したときにその返還を請求しなければならず,それは借主に継続的金銭消費貸借を終了させる(=新たな借り入れができなくなる)ことを求めるに等しいという点を挙げています。
3 お早めに弁護士にご相談ください
この理屈を敷衍すると,取引の途中でも,もはや新規の借り入れがあり得ないような状況になった場合には,その時点から消滅時効が進行する,という解釈が出てきます。
業者側は,新規の借り入れがあり得なくなった状況として,貸付停止措置を取った,ということを指摘し,貸付停止措置を取った時点から消滅時効が進行すると主張してきます。
この主張についての裁判例の結論は分かれていますが,注意していただきたいのは,今現在も返済を継続しているものの,10年以上前に貸付停止措置が執られていた場合(つまり10年以上返済のみを継続している場合),消滅時効の問題が出てくるということです。
時効は取引終了から10年,とはならないケースもあるということですので,お早めに弁護士にご相談いただくことが重要です。
過払い金返還請求の一連計算について
1 はじめに
消費者金融やクレジットカード会社に対する過払い金返還請求が隆盛となってから10年以上が経過しています。
この間,最高裁判決や下級審(高等裁判所,地方裁裁判所,簡易裁判所)判決によって過払い金返還請求に関する争点についての判断が示されてきました。
例えば,悪意の受益者の争点については,平成19年に最高裁によって一つの判断が示され,貸金業者等は原則として悪意の受益者であると推定されるものとされました。
そこで,一部の消費者金融業者は,その推定を覆すべく,大量の書証を提出して争ってきましたが,多くの下級審判決は消費者金融業者の主張を退け,一部業者については最高裁判決によって悪意の受益者である旨が示されたため,現在では,悪意の受益者について本格的に争われることはほとんどありません。
なお,悪意の受益者と認められると,過払い金に利息が付されますので(多くのケースで5%の利息が付されます),過払い金の金額がかなり大きくなり,業者にとっては厳しい負担となります。
ここでは,現在でも争われる争点についてご紹介します。
2 一連計算について
一連計算の争点についてもいくつかの類型がありますが,ここでは2つ紹介します。
まず,最もよく争われる類型は,極度額の範囲内で借り入れと返済を繰り返す継続的金銭消費貸借で,途中完済があるケースです。
このケースの場合,完済前後で基本契約が同じか否かによって判断枠組みが異なってきます。
その判断枠組みは最高裁判決によって示されており,とくに完済前後で基本契約が異なっている場合は訴訟においても厳しく争われます。
次に,一回払取引についての一連計算の争点があります。
クレジットカード会社のキャッシングの場合,主な取引形態としてリボ払取引と一回払取引があり,一回払取引の場合,一つの借り入れに対する返済は一回で完了します。
この一回払取引を基本契約に基づき繰り返し行った場合に,各々の一回払取引を一連計算できるかどうかが争われます。
この点については,判断を示した最高裁判決はなく,下級審判決の結論は高裁レベルでも分れています。